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神父が1年で最も忙しい1週間〜the X'mas story
"Kotomine" |
「ランサー」 主の呼ぶ声が聞こえる。が、あえてそれはシカト。周囲の雰囲気は至って平穏。危急の事態なんて爪の垢ほども感じられないのは霊体になっていようと分かる。ただ呼ばれたからと一々現界していたら、その分魔力が必要で。魔力が足りなくなれば例の方法で供給されるのがオチで。 そんなことを考えての無視だった。子供っぽい意地といえばそれまでだが。 「ランサー、現界しろ」 それを悟ったのか、2度目の呼び声は明確な指示。仕方なくランサーは現界する。 「……何の用だよ。戦闘以外でオレを呼ぶな」 「戦闘だから呼んだのだ。とりあえず着替えて来い」 青の装甲を纏って現界したランサーに紙袋を手渡す言峰。『戦闘』と『着替え』に関連を見出せないランサーは、手がかりがあるのかと、渡された紙袋を一応覗き込んでみる。が、中に入っていたのは男物の洋服一式。 「何だよ、コレ?」 「現世の人間の服だ……見ればわかるだろう」 そんなことを聞いているのではなかったが、言峰はそれをわかった上で人を食った返事をしてくる。いつものこととはいえ、鬱陶しいしイライラする。こんなヤツに10年間付き合ってきたギルガメッシュの気が知れない、と思わずにはいられないランサーだったが、考えてみればかの英雄王もまた人を食ったような話し方をするのだから、まあ同類かと納得してしまう。 「戦闘って……こんな薄っぺらい服着て何しろってんだ?」 「こちらにはこちらの方法があるのだよ、ランサー。サイズには問題なかろう」 「……なんで、言い切れんだよ」 言ってしまってから、ランサーは自分の過ちに気がついた。フ、と鼻で笑って値踏みするような視線で言峰はランサーを視線で一撫でする。 「言ってもよいのか? それは……」 「言わなくていい! というか、言うなっ!」 何を言われるのかすぐに想像がついてしまうだけでなく、不覚にも頬の辺りに血が上ってくる感覚がある。 「……着替えてくる」 それを見せないように、言峰に背を向けたランサーは礼拝堂の脇にある神父用控え室へと姿を消した。そんなランサーの後姿を、言峰は珍しく楽しげな表情で見送った。 「……な、なんでここまで……」 控え室では細身のジーンズに足を通したランサーが、あまりのフィット具合に青ざめていた。 「……………」 「……来たか」 細身のジーンズに長袖のTシャツと、この時期にしては明らかに寒いだろうという格好だが、サーヴァントであるランサーにとって問題はない。それよりも問題なのは他の事だった。礼拝堂には見覚えのない人物が二人いたのだ。 「……………誰、だよ?」 「シスター青島とシスター倉沢だ。孤児院の子供たちとクリスマス礼拝の準備があるのでお越しいただいた」 見たところまだ20代だろう二人の修道女は微笑みを浮かべて軽く会釈をしてくる。 「はあ。で、オレが何で……」 呼ばれたんだ。そう続けようとしたランサーの声は子供たちの喚声によって見事にかき消された。 「うわー、このお兄ちゃん、男のくせに髪が長いー!」 「ピアスしてるー、不良だ、不良ー!」 いきなり十何人もの子供たちに囲まれ、髪を引っ張られるわ服を引っ張られるわでてんやわんやのランサー。なまじ子供は遠慮会釈がないので、抵抗できないランサーはされるがままになってしまっていた。 「と、いうわけだ。雑用一般、子守全般……精々励めよ、ランサー」 それだけを言うと、言峰は二人の修道女を連れて礼拝堂を横切って行く。困ったような表情を浮かべながらも、二人はもう一度ランサーに会釈をすると何も言わずに言峰の後を追っていった。 「ちょ、ちょっと待て! 言峰! てめェ、どういう了見だっ!!」 英霊を雑用とか子守とかに使うなぁぁぁあぁ! そんなランサーの叫びは子供たちの声によっていとも容易くかき消されたのだった。 「くしゅん!!」 「どうした、凛? 風邪か?」 別の場所では別の主従によってこんな会話がなされていた。 もともと子供が嫌いかと言われればそんなことはないランサー。最初のうちはてこずってはいたものの、その大らかな気質と面倒見のよい性格は自然に子供たちに懐かれていった。 昔からそうだった。 だから思い出してしまう。自らが起こした虐殺劇―――ムルテムニーの虐殺を。 「お疲れでいらっしゃいますか?」 聖堂入口の芝生に寝転がっていたランサーのところに、黒衣の女が二人現れた。1週間前から冬木教会にきているシスターたちである。 「まあ、それなりに」 基本的に弱みを見せるのが嫌いな質であるし、特に女の前で愚痴っぽくなるのは格好が悪い。そんな風に思っているランサーは、平然として身体を起こす。二人はくすりと笑うと、今夜のクリスマス礼拝で子供たちに配るというお菓子をランサーに渡してくる。礼を言って受け取ったランサーに、一人が尋ねてきた。 「あなた、ファーザー言峰とどういうご関係?」 聞きなれない単語に、口にした菓子を噴出しそうになったランサー。 「ええと…それは……」 主を殺されて略奪されてきました、などと言えるわけもなく言葉を濁らせるしかできないランサーに、救いの手とばかりにもう一人が答える。 「遠縁の方って聞いたけど、私は」 どういう遠縁だよ、お約束のツッコミを入れようとしたランサーだったが、 「確か、毎年いる金髪の男の方も遠縁だとか?」 更なる一言ですでにそんな気力も失せてしまった。 何でオレと言峰とギルガメッシュが遠縁なんだよ! そもそも似てねーっつの! 心の中で言いたいコトをブチまけて、一応、平然とした表情を保つ。 「それにしても、ファーザー言峰には感謝しています。毎年、こちらの教会をお借りしてクリスマス礼拝をさせていただいてますから」 「本当に。礼拝までの1週間は準備で立てこんでしまって……あなたにもご迷惑おかけして」 お休み中にごめんなさいね、そう言って二人は去っていった。 「ったく、あいつの外ヅラのよさはここまでくるかよ」 思わず毒づいたランサーだったが、本当に、本当に少しだけこんなのも悪くはないと思ってしまっている自分に気づいていた。 つつがなく礼拝も終了し、二人のシスターと子供たちも帰っていった。喧騒は洗い流され、普段の静寂に包まれる聖堂は、意外と物悲しさを漂わせているような雰囲気だった。 「ご苦労だったな」 日付が変わって、26日。すでに「優しい神父さん」の仮面などいとも簡単に脱ぎ捨てている言峰は、それだけを言った。いや、それだけとは言え、そのような殊勝な言葉がこの男の口から出てくるのが不思議なほどである。 「まあ、礼というわけではないが…これを渡しておこうか」 「なんだよ、『クリスマス・プレゼント』ってヤツか?」 面白がって、一応受け取ってみるランサー。言峰が渡した箱を開けてみる。と、 「何だよ…これ………」 「見てわからんのか。『うるるんv わんこちゃんセット』だろうが」 ネコミミならぬイヌミミ。 薄物の服に、犬の毛皮をあらわしているようなフェイクファーが所々についている。 「これを、オレにどうしろと……」 「決まっている、着替えて私の部屋に来い。1週間分の魔力をたっぷりと補給してやる」 『たっぷり』に力をこめて言い切った言峰は、これ以上もないほど青ざめたランサーをこれ以上もないほど楽しげに眺めつつ席をたった。 「………………」 この後のランサーの運命は、誰も知らない。 ・END・ 犬耳&薄物毛皮、は佐々木の趣味です(笑)。背面○位でHシーン書いてみたいですが、そんなことになったらもう散々に泣かされてるだろうにな……哀れな(ヲイ) |